ESHG2026 参加記
スウェーデン・ヨーテボリで開催されたESHG 2026に参加し、社会的孤立のGWASについてポスター発表を行いました。東北メディカル・メガバンクの国際的な認知度向上やバイオバンク研究の国際連携について考えた参加記です。
スウェーデンのヨーテボリで開催された欧州人類遺伝学会の年次会合、ESHG 2026に参加してきました。

フローニンゲンから列車で約15時間。車窓に広がる景色は、オランダの湿地帯から、次第に岩盤が露出するスカンジナビアらしい地形へと変化していきました。ヨーテボリはスウェーデン第二の都市で、港を中心に発展した商業都市です。運河沿いの街並みは美しく、小さくて素敵な雑貨店が数多く並んでいました。その一方で、街の人通りは比較的まばらで、北欧らしいゆとりも感じられました。


ESHG 2026は、ヨーテボリ中央駅から徒歩約30分、主要な観光地からもほど近い会場で開催されました。初日の朝には、会場の外まで長く続く参加証発行待ちの列ができており、学会の規模の大きさを実感しました。
ESHGはヨーロッパ最大規模の人類遺伝学に関する学術集会であり、日本からも毎年多くの研究者が参加しています。私は今回が初参加であり、初めての発表でもありました。
巨大なホールには約50の企業展示ブースが立ち並び、ポスターは計3回入れ替わるにもかかわらず、各回100~200題ほど掲示されているように見えました。また、1,000人ほどを収容できる講演会場が計5つあり、プレプリントの段階から注目を集めている研究の発表を含め、常に最先端の講演を聴くことができました。


発表テーマの構成は、全体としては日本人類遺伝学会とおおむね同じような印象を受けました。一方で、ゲノム解析のためのソフトウェアやアルゴリズム開発に関する発表など、人類遺伝学研究のベースとなる方法論に関する発表も散見されたことが印象的でした。私の発表分野に近い集団遺伝学では、大規模な国際コンソーシアムによるGWASそのものの発表は比較的限られており、バイオバンクや公開データを利用したPost-GWAS解析が多くみられました。
私は「Genome-wide association study of social isolation in 63,497 Japanese adults from the general population」と題し、東北メディカル・メガバンク機構のデータを用いた社会的孤立のGWASについて、ポスター発表を行いました。
この研究は、3年前に京都大学の社会疫学分野との共同研究として始まったものです。人が社会や家族とどのようなつながりを持っているかを定量的に評価し、その遺伝的背景を探索するという、挑戦的な研究計画でした。
本研究では、2つのゲノムワイド有意な遺伝子座を同定しました。人間の社会的な営みに関係する表現型についても、遺伝学的な視点を取り入れることが有効であることを示すことができ、今後、社会疫学と人類遺伝学のさらなる連携につながることを期待しています。
ポスター発表のコアタイムは、12時から13時までの1時間でした。コーヒーを片手にした参加者が巨大な会場にあふれ、壁際ではランチをとりながら床に座り込む参加者も多く、会場は異様なほどの熱気に包まれていました。会場を歩きながら偶然興味を持ってくださる方もいれば、事前に私の研究を見つけ、話を聞くために訪れてくださった研究者もいました。
これを可能にしていたのが、学会の専用アプリです。このアプリは非常に使い勝手がよく、テーマや所属機関から発表を検索できるほか、気になる発表にリマインダーを設定することもできる、まさにかゆいところに手が届くシステムでした。自分の研究に関心を持ってくださった方と容易に話すことができ、巨大な学会でありながら、効率的にほかの研究者と交流できる仕組みが整えられていました。
ここからは、研究者と話すなかで気づいた、少し専門的かつ個人的な感想を、自分自身の備忘録として記しておきたいと思います。
第一に、東北メディカル・メガバンク機構の国際的な知名度が、まだ十分に高くないということです。約15万人の一般住民を対象としたデータを有し、約10万人分の全ゲノムシークエンスデータも整備されている東アジア有数のバイオバンクであるにもかかわらず、今回お話しした約20名の研究者のうち、その存在を知っていたのは1名だけでした。
一方で、東北メディカル・メガバンク機構について説明すると、皆さん非常に興味を示してくださり、データ分譲の手続きについて具体的に質問する方も少なくありませんでした。利用されていないのではなく、単純に存在や利用方法が十分に知られていないのだと実感しました。
今回のESHGでも、東北メディカル・メガバンク機構のデータを用いた発表は、おそらく私だけだったと思います。これは、研究成果やデータ基盤について、国際的な場でさらに積極的に広報していかねばならぬと反省しました。
第二に、前年にプレプリントとして公開されたエコチル調査のGWASサマリー統計量を活用した発表を2件見つけました。エコチル調査は妊婦とその家族を対象としたコホート研究であるため、一般成人を対象としたバイオバンクと比較すると、関連する発表の絶対数は多くありません。しかし、研究規模の大きさとデータ公開の効果によって、国際学会においても確かな存在感を放っていました。
東北メディカル・メガバンク計画の三世代コホート調査も、母子の詳細な情報とゲノムデータを併せ持つ貴重な研究基盤です。しかし、これまでGWASのサマリー統計量を広く公開してこなかったため、ほかの研究者によってこのような形で利用される機会は、ほとんどありませんでした。
こうした経験を通じ、研究結果を論文として発表するだけでなく、学会を通じて広く発信し、さらに成果をほかの研究者が利用しやすい形で公開するところまで丁寧に取り組まなければ、次の研究にはつながらず、科学全体の発展にも十分に貢献できないのかもしれないと考えさせられました。
総じて、ESHGに参加したことで、なぜヨーロッパではバイオバンクの相互利用が非常に盛んなのか、その理由の一端を理解することができました。まさにESHGのような場で情報が継続的に共有され、言語や国境を越えて共同研究が生まれていくダイナミズムを実感しました。
一般のヨーロッパの研究者にとって、東アジアのバイオバンクを用いて研究を行うことには、情報の少なさに加え、技術面や手続き面での高いハードルがあります。そのため、ESHGのような場で積極的に情報を発信し、ヨーロッパで形成されているバイオバンク研究のエコシステムのなかに、日本のバイオバンクを位置づけていく必要があるのかもしれません。
何より重要なのは、今回議論を交わした研究者の多くが、日本人集団のデータを解析に取り入れることに前向きだったという点です。日本のバイオバンク研究の国際的な利活用を推進するためにも、今後もESHGに継続して参加し、情報発信と研究交流を続けていきたいと思います。
<おまけ>唯一食べた北欧らしい食べ物。酸味のきいたイチゴジャムが斬新。芋が主食というのが未だ解せない。白飯が欲しくなる、、、